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ブログ - Words from Flying Books

Saul Bass 『Henri’s walk to Paris』入荷!

Saul Bassの『Henri’s walk to Paris』が入荷しました。
今回はとても珍しいカバー付き、しかも真鍋博旧蔵品です。

もともとマニアの間では幻の絵本と言われていて、最近、復刻版が出版されたために特に知名度が上がりましたが、復刻版の初刷も、もう入手が難しくなってきたようです。
ここではせっかくなので、初版と復刻版とを見比べてみましょう。

まず、版型はほぼ同じに見えますが、復刻版のほうが若干大きめで、紙が厚いため厚みも重みもあります。
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(左が初版、右が復刻版)
 表紙の足のイラストの下、著者名・出版社の書いてある赤い文字は、初版のほうは、文字が地面のようになっており、目線が右へ向かうデザインとなっていますが、復刻版のほうは、文字は中央揃になっていて、目線の誘導が止まってしまっています。(奥付ページも同じく) 
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次のページは、一面に文字が敷き詰められていて、初版は文字がきれいにおさまっているのですが、復刻版は上下がトリミングされて文字が切れてしまっています。
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(左が初版、右が復刻版)

そして、絵本にとっては致命的と言っていいほど色味が全然違います。
初版では、隅々まで行き届いたデザインセンスとヴィヴィッドな色に目を奪われて、すべてのページを額に入れて飾りたいと思ったほどでした。
復刻版のほうはちょっと濃い目なのかな、くらいに思って見ていきましたが、全体的に色彩のトーンが暗く、色調の差が少ないのです。

(左が初版、右が復刻版)
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たとえば、初版では森の中の家の白さが木々のコントラストで浮き上がって見えるところが、復刻版では全体的にうすぼんやりとして見えたり、目がチカチカするほど鮮やかな赤とピンクのバスが、そこまで刺激的ではなかったり、木々と道路の絵ではグリーンの色あいが全然違っていたり、青の3色のトーンは小鳥の黄色と周りに見える表紙の黄色と呼応しているのが、復刻版は3色の差があまりなく、小鳥の色と表紙の色もちぐはぐだったりして効果的ではありません。画像ではわかりづらいかと思いますが、実際に並べてみると全然違います。

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復刻にあたって、元版になるべく近づけるよう印刷するのは、ここを生かせば、どこかを妥協しなければならないといった大変な作業だったにちがいありません。初版のクオリティーを復刻版に求めるのは限界があるでしょう。
この絵本は、パリを目指してHenri君がワクワクしながら歩いていく冒険のお話なのですが、復刻版を見てからあらためて初版を見ると、絵とお話の相乗効果が本当に素晴しいのです。

初版には、最初に生み出すときの、作家・デザイナー・版元の三者がひとつになった魂のようなものが込められていたのではないかと感じます。

幻の絵本で入手困難だったものが、安価で多くの人に見てもらえるのは、復刻版ならではと言えますが、ちょっとした違いで全体の印象がこんなに変わってしまうことがわかりました。なかなか出合えないですが、Saul Bassの、緻密でありながらのびのびとした世界観は、ぜひとも貴重なオリジナル版で味わっていただきたいと思います。

『Henri’s walk to Paris』
Saul Bass(デザイン) Leonore Klein(文)
初版 カバー裏表紙少切れ 真鍋博旧蔵シール
Young Scott Books 1962年
¥95,000

2012 年 4 月 13 日 | comment
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