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ブログ - Words from Flying Books

SUBWAY MAPS -地下鉄から墓場まで

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世界中の地下鉄のMAPを並べて見比べることが出来たとしたら、そのトポロジカルに圧縮されたカラフルな画像にとてもわくわくするはずだ。アルファベット、漢字、数字、線、点といったさまざまな記号に溢れる情報の羅列にゲルハルト・リヒターのカラーフィールド・ペインティングや、モンドリアンやワシリー・カンディンスキーの抽象絵画の美しさにも匹敵する感覚を味わえる。そこには表現の意識の無い機能美が支配し、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機コンコルドのようにエレガントだ。必要最小限まで絞り込み、余分なモノを一切削り落とす時、そこには最初から、それしか考えられないフォルムが現存する。カラフルでポップな地下鉄のMAPのイメージからリアルな地下鉄のイメージに変換すると、そこには全く違った世界が見える。特にニューヨークの地下鉄は、さまざまな危険なウソかホントか分からない物語を生み出し、私達の脳髄を刺激する。たしか、「裸のランチ」の冒頭もジャンキーの主人公が警察から逃げるために地下鉄に乗り込むシーンからだったはずだ。
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地下鉄といえば、ウォーカー・エヴァンスがニューヨークの地下鉄の席に座る乗客を隠し撮りした写真が有名だが、今回はブルース・デヴィッドソンのギラギラ・ギトギトした写真方を選ばしてもらう。ブルース・デヴィッドソンといえば、幾多の写真家の中でも、特に被写体に真っ正面から堂々と向き合う真摯な写真家の数少ない一人である。

ハーレムの厳しさを撮影した「East 100th Street」や、ブルックリンのストリート・ギャングをドキュメントした「Brooklyn Gang:Summer 1959」、そしてマッド・マックス化した無法地帯のニューヨークの地下鉄を体当たりで撮影した強烈な写真集「Subway」は特に魅力だ。

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「Subway」はその厚化粧のようなカラー写真の迫力が胸騒ぎや苛立ちを感じさせる。なんというか、見ている者に安物の香水の臭いを想起させたり、背中にナイフを突き付けられてカツアゲされているような恐怖感を視覚を通して訴えかけてくる。ブルース・デヴィッドソンがインタビューで「これはモノクロでは無く、カラーの猥雑な感じが必要だと」語っていたことが、改めて見るとやはり納得である。車内一面の落書きと、そこに座る黒人女性のポートレイトは、電車が出す騒音や低下層に生きる人々の心の苛立ちを良く具現化しているし、仲間とツルんでスカッとするために喧嘩するしか考えてないような、顔に傷のある若者達の現状がそのまんまストレートに表現されている。この魅力的だが危険一杯の空間を覗いてみたいけど、勇気のの無い方は是非、この写真集でその感覚を創造し満足してもらいたい。
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ブルース・デヴィッドソンの「Subway」を眺めていると、一つの映画を思い出す。それは巨匠ブライアン・デ・パルマ監督の「殺しのドレス」である。この映画で、主人公がをブロンドのデカイ剃刀を持った女装した犯人に主人公が追いかけられる地下鉄のシーンは、80年代前半のニューヨークの地下鉄の雰囲気、いや、アメリカの雰囲気を共有している。その不安に満ちたフィルムは、天下のアメリカが下から上へと追いかけてくる日本やアジアの国々に対する恐怖であり、帝国の綻びの始まりである。しかし、この時代のフィルムに焼き付けられた不安や恐怖、その不安から出てくる”マッチョ・アメリカ”の強がりの態度は妖しく輝き、今でも僕らを魅了する。写真であれ映画であれ、恐怖や不安は人々にいち早く感染する。
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ハヤシユウジ

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『Subway』
Bruce Davidson ブルース・デヴィッドソン
初版 HC カバー
Aperture 1986
¥25,000

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『Photographs』
Bruce Davidson ブルース・デヴィッドソン
献呈サイン入 HC カバーヤケ
Agrinde 1978
¥48,000

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『Photographs』
Bruce Davidson ブルース・デヴィッドソン
サイン入 SC セロテープ跡 裏表紙少イタミ
Agrinde 1978
¥23,000

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『East 100th Street』
Bruce Davidson ブルース・デヴィッドソン
SC 少イタミ 小口ヤケ
Harvard University Press 1970
¥25,000

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『Portraits』
Bruce Davidson ブルース・デヴィッドソン
初版 HC カバー
Aperture 1999
¥6,000

2013 年 8 月 31 日 | comment
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ポリフォニーを可能にする

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宇野亜喜良・横尾忠則によるイラストが美しい『海の小娘』は、
登場人物の語りを赤・青の色分けによって多重的に展開する物語。
この本を見るとき、イラストに眼を奪われがちですが、
「えほんてきに」とタイトルに書いてあるように、これは単なる「絵本」ではないのです。

ある国の港のお祭りの日、
主人公は、白く美しいヨットに乗った少女(ちょっと不機嫌)に出会い、
不思議な事件に巻き込まれます。

海のように深い眼をした少女に導かれ、
ヨットに乗り込むと、そこでは現実とは別の時間が流れていました。

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中盤、船長に誘われ酒場で話をしていた時間と、少女と一緒にヨットにいた時間とが同時に展開していく場面が秀逸です。(赤・青セロファンを使って読み進めます)

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そのとき何が起こっていたのか、本当のことは誰にもわかりません。
しかし、自分の身に起こったことは事実です。

独白を重ねて物語りを進めていく手法では、芥川龍之介の『藪の中』を思い出します。
これを原作に黒澤明が映画化しましたが、小説でも映画でも、
同じ場面を別の角度から描くためには、一つの時間軸の流れに沿って
別の視点からもう一度くり返すという手法をとらざるを得ません。

『海の小娘』は、赤と青の色分けで紙面をデザインすることによって
同時平行で物語を進めることができました。

赤と青の世界だけではありません。

「僕」がヨットで経験したことと、船長の遠い記憶がつながるのです。

少女はヨットに棲む亡霊か、はたまた海の化身なのでしょうか。
お祭りの日だからか、少女を媒介に彼岸と此岸がつながるのです。
彼女がちょっと不機嫌なのは、見えないものを見ないようになってしまった人たちに対してなのかもしれません。

物語とデザインが補い合って、一つの像を立体的に立ち上らせ、映像的でありながら映像では表現できない作品、これぞ本の美しさだと思います。

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『海の小娘』
文:梶祐輔
イラストレーション:宇野亜喜良 横尾忠則
初版 カバー少イタミ 赤青セロファン付
朝日出版 1962年
¥65,000

Uehara

2013 年 8 月 24 日 | comment
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新しくなった「渋谷大古本市」

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今日から東急東横店で「渋谷大古本市」が始まりました。
今年で22回目を迎える渋谷大古本市、東急東横店のリニューアルに伴い会場が少しコンパクトになりましたが、20店舗が一堂に会し、密度が濃くなっています。

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弊店では、駒井哲郎、小村雪岱、恩地孝四郎など美術を主として、映画や写真、思想や戦記なども出品、毎日続々新しい商品も追加していきます。

暑い中ではありますが、今日も大勢のお客様でにぎわっておりました。
とっておきの1冊を探しに、ぜひ足をお運びください!

渋谷大古本市
8/15(木)~20(火)
10:00~21:00(最終日は17時閉場)
東急東横店 西館8階 催物場
http://www.tokyu-dept.co.jp/toyoko/event/detail.html/?id=226

2013 年 8 月 15 日 | comment
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バウハウス発、遊ぶアート

bauhaus-manifest (Bauhaus Manifest)

美術館などでこの絵を見たことがあるという人は多いでしょう。
グロピウスによる「バウハウス宣言」を掲載したパンフレットです。
この口絵の木版画を作ったLyonel Feiningerという人は、ヨーロッパではカンディンスキーと並んで抽象画の作家として知られていますが、日本ではまだそれほど知られていないようです。

Lyonel Feiningerは、1871年ニューヨークに生まれ、ドイツで音楽と絵画を学び、
第一次世界大戦前はイラストレーターとして新聞にカリカチュアを描いていましたが、
この頃盛んだったムーヴメントや学派には特に属さず、カンディンスキー、クレーたちと活動した後、1919年にグロピウスの誘いで、バウハウスで教鞭をとりました。

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ファイニンガーは、ドローイング、ペインティング、彫刻、版画など様々な手法を用いて作品を創りました。

1965年に出版された『City at the Edge of the World』は、ファイニンガーの息子ふたりが彼の作品を紹介したものです。

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船乗り・パイプをくわえた人、帽子をかぶった鳥やおじいさんなど、素朴な木の質感が残る彫刻は、みんな愛らしく表情豊かで、家や舟が並ぶ海のそばの小さな町で本当に生活しているかのように見えてきます。

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一見子ども向けのおもちゃのように見えるかもしれませんが、
遊びとアートとは元は根がひとつなのだと思います。

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この人形たちを見ていると、自然と会話が聞こえてきそうです。

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同じ人形が別の角度でも写されているのですが、見る位置によって印象が変わります。
顔や背中にはなんとも言えない哀しみや喜びが内包されていて、
いびつだけれど、大きな愛に包まれて生きているという感じがします。

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自分もその町の住人になった気分で、いつまでも眺めていたくなる作品集です。

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『City at the Edge of the World』
Lyonel Feininger
HC 函ヤケ
Frederick A.Praeger 1965年
¥5,000

Uehara

2013 年 8 月 10 日 | comment
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万年筆がすき。

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『Fountain Pens of The World』は、万年筆界の権威・Andreas Lambrou氏が集めた世界各国の万年筆(ヴィンテージからモダンまで)の、その歴史とブランドを豊富な写真と資料で紹介した非常に重厚な本です。

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170ページ以上のフルサイズの写真ページには、約2000本の万年筆がカラーで実物大で見られます。

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また、万年筆のメカニズムとデザインの発達を精緻な挿絵で紹介。
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日本製の万年筆の広告。蒔絵がほどこされています。

今では世界的な権威であるAndreas Lambrou氏は、12歳の頃から万年筆を集め始め、「Pen World」や「Vogue」などのライターを経て、「Classic Pens Ltd.」という会社を設立。万年筆の修理と販売をおこなっているそうです。

私がお気に入りの1本を求めたのは16歳の頃、たしかOliveで見たフランスの万年筆(Recife)が素敵だと思って、渋谷のBleu Bleuetに買いに行ったのを覚えています。赤いマーブル模様の軸で、専用のアルミの筒に入っていました。「Recife」と走り書きした文字もカッコよく、持っているだけで大人になった気分。大事にしているうちにインクが固まってあまり使えなかったという苦い思い出があります。

ふだんはゲルインクのペンが使いやすいのですが、カバンにお気に入りの1本がいつも入っていて、ここぞというときにサッと出せるといいですよね。

万年筆で書かれた字を見ると、なんだかその人らしさが感じられて好きです。
字が上手でなくても、その人の字として愛着がわきます。
万年筆を手に持ったときの重さ、インクの色あい、軸の材質など、アナログな感じが古本にも似ていると思います。

質・量ともにこれほどの写真と資料が豊富な万年筆の本は類を見ないでしょう。
リファレンスとして万年筆コレクター必携の書です。

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『Fountain Pens of The World』
Andreas Lambrou
HC Philip Wilson Publishers 1998年
14,500

Uehara

2013 年 8 月 3 日 | comment
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