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ブログ - Words from Flying Books

幸福感の爆発、あるいは炸裂

ウィリアム・S・バロウズ卿が、思潮社の『バロウズブック』でこう言っている。「もし、書き方さえわっかたら、読んだら相手が死んでしまうようなものを書きたい。音楽でも、なんでも同じだー知識か、技術が充分ならできるはずだ」「革命は、他人を無視することから始まる」そう、人間でも象でも相手の息の根を一撃で止めるぐらいの力が無いと駄目だ。他人は無視しろ、恐怖は自分自身で作り出したモノだ。

21世紀に入り写真界でその可能性を感じさせたのは、ライアン・マッギンレイただ一人だけだ。ティーネージャーの裸の写真を一枚見ただけで、その事実が分った。みんなベッヒャースクールの亜流か、気の利いた都市や自然のランドスケープでお茶を濁していたが、正直退屈だった。特に日本の写真界は相も変わらず似たような作品の再生産にしか感じられず、爆発力は無かった。バロウズやジュネ、ゴダールやジョン・ウォーターズらの作品のように、批評の暇すら与えない炸裂した作品が見たい。もうホリエモンや、ひろゆきにカメラを渡して、資金力にまかせて撮ってもらったほうが、遥かにエキサイティングかもしれない。作者なんて誰でもいいんだ、ウォーホルのFactoryでは誰が何の持ち場なんて関係無かったはずだ、ウォーホルがそこに居ればいいんだから、ハッキリ言ってFactoryはホントスゴイね!!

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世紀末から新世紀をまたいで、写真界は間違いなくウォルフガング・ティルマンズの時代だった。しかし、何処からか新しいスターは突然やってくる。それは一つの技術を機械的にマスターした画家志望や小説家志望、写真家志望etc…の人物からは難しい。バロウズはジャンキーで小説家、中原昌也はミュージシャンで小説家、エディ・スリマンはファッションデザイナーで写真家、港千尋は評論家で写真家、そしてライアン・マッギンレイはスケーターで写真家だ。

ライアン・マッギンレイは、1977年ニュージャージー州で8人兄弟の末っ子に生まれた。生まれたのが一番下ということもあって、両親も子供の写真を撮ることに飽きたらしく、ライアンの子供の頃の写真は5枚くらいしかないらしい。10代は「スケート・パンク」でジャンキーだったり、全身ラルフローレンしか着ない「ポロ・レイヴァー」になったりで素晴らしい経歴だ。なんと!!その頃の輝かしい栄光の時間も、写真はほとんど皆無。そしてニューヨークにあるパーソンズ美術大学に入り写真に目覚める。ざっとこんな感じだ。ライアンは、まるで人が常に自分に無い物を渇望するように、過去の自分の写真が無い事実をカバーするがごとく写真を撮りだす。ライアンの欲望は強烈で一気に写真界のスターダムに躍り出た。そうなんだ、人は過去の失われてしまう時を、常にねつ造の危機をともなう記憶(自分または、他人に)か、写真や映像というわずかな媒体のメモリーでしか捕らえることが今のところ出来ない。それゆえに負けるのが分っていても世界の断片を記録し続けるのだ。(なんという、いじらしい行為!!)

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ライアンの写真は、若い男女が都会でいたずらしたり、裸で自然のまっただ中に放り出されて無邪気な自分の欲望にしたがって動き回る記録である。モデルになっている男女のイキイキした表情やユニークなポーズは幸福感の爆発を誘う。飛んだり跳ねたり、花火で遊んだり、みんなで裸で木に登ったり、ヤンチャのし放題だ。みんな広告のモデルみたいに美しい体をしている理由ではないが、個性的でチャーミングだ。ライアンの写真では、モデルのウィークポイント(コンプレックス)はスティグマへと一気にひっくり返る。当然だ、染みや、ホクロ、あるいは傷は、自分が自分であるための、表面的な他人とは違う徴だ。 気にするな!!ライアンの「Moonmilk」シリーズでは、洞窟をカラフルな光でライトアップし、サイケデリックで神秘的な写真を作り上げ、ライアンの卓越したセンスを本物だと僕に確信させた。続いてモノクロで撮られたポートレートでは、モデルと剥製を交えて、ファッショナブルでユーモラスな写真を発表し、とどまることを知らない。ライアン・マッギンレイのこれからの動向はチェックし続けなければならないが、才能が枯れる前に。いや、保守的になる前にぜひ一本映画を撮ってほしい。

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ライアン・マッギンレイのように、そのシーンを一撃で変えてしまう存在は稀だ。どんな世界でもそのような人物は必要だ。サッカー選手でも、タコヤキ屋でも、占い師でもそうだ。あのジョン・ウォーターズの「ピンク・フラミンゴ」を観てアンディ・ウォーホルはこう言った。「僕が映画ですることは、もう無くなった」と。ウォーターズいわく「セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズ」公開のため来日した時に、映画監督志望の若い青年にこう助言している。「上にいる奴らを、イラつかせる映画を作れ。そうすれば成功する。」そうだ、上に居座ってあぐらをかいている奴らの足を掬ってやれ!!

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『Everybody Knows This is Nowhere』
Ryan Mcginley ライアン・マッギンレー
Dashwood Books 2010
¥18,000

林 裕司

2012 年 4 月 6 日 | comment
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