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ブログ - Words from Flying Books

優雅で即物的なノワールの快楽

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ジャン=ピエール・メルヴィル監督の愛すべき作品『マンハッタン二人の男』に出てくるカメラマンのデルマスは、発見した死体を厚顔にも演出をして撮影しようとする。しかし、メルvヴィル自身が演じる記者モローに叱責を受け、残念ながら阻止されてしまい、大衆が朝食と共に楽しむ娯楽を寂しいものにし、デルマスに与えられる報酬も名声もわずかなものにした。このデルマス役を演じたピエール・グラッセの好演を観て、ジャン=ポール・ベルモンドがビビったというのも確かにうなずける。この素晴らしいフレンチ・ノワール作品に魅了された僕は、カメラマンのデルマスに、いかがわしさ満載のManhattan Noir King Weegeeウィージーをダブらして観た。確かにウィージーもやるだろう、いや、絶対にやっている。そりゃ、やるよね。ニューヨークで起こる事件に、警察より早くシボレー・クーペで押し掛けて撮りまくって帰る。死体一体につき3ドルとかで売りに出す即物的でドライな感覚、たまりません。

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ウィージー、この男を初めて知ったとき、一番印象的だったのは本人のポートレートだった。大判カメラにストロボ、葉巻にドングリ目。ギャング映画に出てくるマフィアという風貌に、そのままだなと思った。そのままとは、ウィージーの写真が如何にも、こういう人物が撮っていて欲しいという、僕の欲求にドンピシャだったからだ。当時、写真家を知り始めた僕は、友人達にウィージーの写真と、本人のポートレートを一緒に迷惑にも強引に見せ、「なっ、そうだろ!」と言って、一人ゲラゲラ楽しんでいた。もう一人、そういう僕の身勝手な行為にあった写真家は、ジーザスの人形付きの仮面をつけたウィトキン、ただ一人だ。事件現場に葉巻をくわえたウィージーが現れ、バンバン撮る。服装もハッタリも大事だ。警察や、野次馬、被害者も、現場の雰囲気が映画のようなら、そのほうがテンションがアガルに決まっている。せっかくの事件なんだから。今や残念ながらがアーティストが、自身の観てもらいたいイメージを保つのは非常に難しい、SNSやブログなどで自分を売り込む事が簡単に出来るが、その反対にどういう交友関係をしているとか、アップした写真などから個人の生臭い残り香が漂うからだ。もし、確実にイメージを確立したいなら、河原温のように、シュレディンガーの猫(生死が重なり合った状態:河原温は公的な場に一切現れないため、作品の発表からでしか生死を知ることができない。)的に生きるしかない。それか、開き直るかだ。

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「Naked City」この素晴らしい写真集は、1945年に刊行され、瞬く間にベストセラーになる。あまりの人気にすぐにペーパーバックス版の廃価セレクト版が25セントで売られ、これも売れに売れた。このペーパーバックス版は、写真でしか拝見した事がないが、ホッチキスで乱暴に留められていて、暴力的な感じがウィージーらしくて良いらしい。「Naked City」に出てくる写真はどれも素晴らしい。ウィージーの現場をドラスティックに直視する態度は、冷酷に感じられるが、どの写真にも何かユーモラスな温かい雰囲気が感じられヒューマ二ティーがある。ロウアー・イースト・サイドのスラムの人々も、ハンカチで顔を隠すマフィアも、路上でピストルと一緒に転がっている死体もシミッタレた感じがしない。これは、本人の風貌や性格が影響してのことだろう。そこには、M下政経塾上がりの政治家のような上から目線は全く無く。真の人間同士の交わりが伺える。ボードレールの『パリの憂鬱』に出てくる小品「貧乏人を撲殺しよう」の対等な人間の態度にも通ずる感覚である。ウィジーの写真のノワールな快楽は、アメリカのギャング映画を観た後のような臨場感をもたらし、都庁をエンパイア・ステート・ビルにしたり、サイゼリアをブルックリンの安いダイナーにしくれる。そう、優れた作品は、出会う前と、出会った後の感覚に違いが無ければならない。
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ウィージーのように写真も本人も魅力的な人物が、本当はアーティストとして猛威を奮って欲しい。僕のブログに何回も登場して悪いが、あのTrash King、ジョン・ウォーターズは、いまだに一人でヒッチハイクをしていると知って驚いた。素晴らしい!ウォーターズをピックアップしたグループが「何でヒッチハイクをしてるの?」と訪ねると、ウォーターズいわく、「人と出会ってSEXするいい方法だから」とのこと。感動しました。ウォーターズと知って拾った奴らもスゴイが、ダンボールに”ルート77の終わりまで”と書いて、ハイウェイに一人立つチョビ髭の妖しい男。まさに、こういう男の作品だけが見たい。ウィージーやウォーターズように悲劇的なシーンもカラッとしていて、感傷的にならない作品をもっと観たい。作品じゃ無くてもいい。一部の吹けば飛ぶようなキレイやカワイイとか、海外の街のスラムとか、女子高生とか、都市のランドスケープだとか、著名人の猫とか、日本人の肖像とか、わびさびとか、そんなことはどうでもいい。自分のイメージと向き合うとかショボイ感動とかサヨナラ。先日、来日中のポルトガルの映画監督、ペドロ・コスタにサインをもらいにトークショーに行った。そこでペドロ・コスタが言っていた。「今、映画(芸術)はある種の暴力的な挑発性が無ければならないし、映画(芸術)の文法なんて関係ないと認識すべきだ」と。そう、ナマな素材の暴力性ある作品が観たい。「ジョン・レノン対火星人」のような。
ハヤシユウジ

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『Neked City』
Weegee
HC 献呈サイン・メッセージ入 初版 カバーイタミ・テープ補修(カバー2刷)
Essential Books 1945
¥200,000

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『Naked City』
Weegee
HC カバーイタミ Da Capo 1975
¥25,000

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『Naked Hallywood』
Weegee
HC 初版 カバー少イタミ Pellegrini & Cudahy 1953
¥20,000

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『Weegee’s People』
Weegee
HC カバー少イタミ Da Capo 1975
¥9,500

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『Weegee By Weegee』 
Weegee
HC カバー少イタミ Da Capo 1975
¥7,500

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『Weegee』                                                                                                                   
Weegee
HC 初版 Knopf 1975
¥6,500

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『Weegee』
Weegee
SC 初版 Da Capo Press 1989
¥5,500

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『Naked Hollywood』
Weegee
SC ペーパーバック版初版 Da Capo Press 1976
¥4,500

2012 年 12 月 15 日 | comment
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